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TVや雑誌で派手な広告を展開することもなく、一般的な知名度は低い地味な存在だが、化粧品OEMの数は約100社にも達する。
化粧品業界の市場規模はざっと2兆円。 このうちOEMが製造している商品は、約3000億円と推定される。
つまり市場にあふれる化粧品の6〜7分の1が、消費者がよく知るメーカーではなくOEMの製品だ。 化粧品メーカーがOEM企業の工場の一部を分工場として借り上げ、中味の充填、包装、仕上げといった最終工程を行う、あるいはメーカーが自社工場を作ってその運営をOEM企業に一任すれば、OEMの名前を製造元として記載する必要はない。
仕様が違うとはいえ、同じ工場で作られた化粧品に違うブランド名が付けられて、市場に送り込まれているのである。 製造を外注するなんて中小メーカーだけだと思ったら大間違いだ。
大手メーカーでさえも、OEMを常時利用している。 とりわけ、口紅やアイシャドーといったメイクアップ化粧品はOEM頼み。
化粧水や乳液などのスキンケア化粧品は装置産業であり、いったん機械さえ導入すればそう高い製造技術が必要ないのに対し、メイクアップ化粧品は流行のサイクルが早く多彩な色揃えが必要で、高度な調色技術が求められるからだ。 例えば、ある色の口紅の製造依頼が1年後に再び入ったとすると、まったく同じ色を再現するのは素人が考えるほど簡単ではない。
データとして残っている基本処方をペースに、機械を使って80%ぐらいまでは前の色に近づけることはできるが、100%に持っていくには人間の目による色の補正(カラーマッチング)が必要となる。 メーカーは「手間がかかって単価が安いメイクアップ化粧品は専門業者に任せた方が効率的」と判断する。
口紅と同じように色数が多いネイルカラーも、OEM依存度が高い商品だ。 製造施設を持つメーカーは、OEMを含めても数社程度。

ネイルカラーの製造には危険物の溶剤が使用されるため、生産設備にはコストもかかるし、消防法に触れない施設の設計・運営ノウハウが必要となる。 パールタイプのネイルカラーは、古くは太刀魚の魚鱗箔や雲母チタンが使用されていたが、現在は雲母チタンにフィルムをアートしたり、特殊加工したガラス粉末を取り入れている。
これらはすべてOEMから生み出された新技術だ。 OEMの多くは化粧品製造のプロであり、研究・開発から中味や容器の製造、販売後のデータ分析まで、ちょっとしたメーカーよりも遥かに豊富なノウハウを持ち合わせている。
化粧品について何も知らない素人でも、彼らに依頼さえすれば化粧品メーカーの仲間入りができる。 実際、通販で人気のある化粧品メーカーの大半は製造機能を持っていない。
市場にはいまこうしたファブレス(工場を持たない)化粧品メーカーが増えているが、それを支えているのがOEMなのである。 便利なはずが90年代、SやK以外のメーカーも「流れに乗り遅れるな」とばかりに、次々と落ちない口紅を発売していたが、市場に氾濫した落ちない口紅の多くは日本色材工業研究所の手によるものだった。
口紅やアイシャドーなど「色モノ」に強いOEMとして知られ、落ちない口紅の開発に成功した同社の元には、大手メーカーが殺到した。 日本色材工業研究所はどのようにして、「落ちにくいけれど付け心地も悪くない口紅」という難攻不落の問題をクリアしたのか。
答えは、容器にあった。 落ちない口紅は揮発性の油を使い、唇に塗った後に色落ちの原因となる油分が蒸発するようになっている。
色素は高分子樹脂の膜で包み、色は残して油分だけが消え去る仕組みだ。 85年のM製品の場合、容器の中で油が蒸発してしまったために、唇につけた時にカサカサとした感触となり、つけにくく突っ張り感が生じる結果となった。
この事態を避けるため、わずかな水分に反応して唇に潤いのベールを作る超高分子樹脂に色素を包み、揮発成分が飛びにくい気密性の高い容器を採用したのである。 油分が揮発しにくいから、唇に塗りやすくなじみやすい。
いったん口紅をつけるとその後油分は消え去るので、色は移りにくくなる。 テスティモに導入されたこの技術は市場から高い評価を得た。

だが画期的な技術をもってしても、女性たちを感服させることはできなかった。 Kが落ちない口紅のクライマックスを宣言した後、まさにブームは終焉に向かう。
Kが次に訴えたのが、唇への優しさだ。 97年に発売したテスティモHの宣伝文句は、「つけてるだけで、くちびるエステ。
ぷるん」。 他社も大なり小なり似たような展開だ。
落ちにくさよりも、唇を肉感的に見せたり、乾燥しにくくする機能に力を入れ始めた。 なぜ、メーカーはこぞって方向転換したのか。
口紅が落ちないなんて何もいいことばかりではないと、女性が痛感したためだ。 通常の口紅の色は、摩擦や熱などで落ちやすい。
ところが、落ちない口紅はメーカーが叡智を尽くして作り出しているだけに、摩擦や熱にも強い。 だから、ちょっとやそっと洗っただけでは色が落ちない。

そのため唇の上に残った色を取り除くには通常のクレンジングではなく、落ちない口紅用に作られた専用のクレンジングが必要となる。 化粧直しの手間がいらず、色持ちが良くて便利なはずなのに、落とすときには余分な手間とお金をかけなくてはならない。
また、この頃から急速に高まり始めた自然志向(自然な素材を使った化粧品を使いたいという志向)の影響も大きかった。 色が唇にいつまでたってもへばりついているのが不自然なら、その色を落とすために専用クレンジングを使うのも不自然。
何より唇に負担がかかる。 それならば、落ちる口紅の方がましだと多くの女性は考え始めた。
女性の関心は、ぶるぶるふっくらした唇へと向かっていく。 業界の新たなキーワードは「潤う」「光る」「輝く」。
90年代後半から女性の唇は、つやつやとテカリ始めていった。 盛り上がっては冷め、なかなか定着しない落ちない口紅。
だからといって、メーカーは落ちない口紅に完全に見切りをつけてはいない。 長続きしないのは結局、機能が劣っていたからにほかならない。
女性の不満を解決しようと、メーカーはさらに知恵を絞り始める。 21世紀に近づくと、S、K、Mが新しいタイプの製品を投入し、落ちない口紅市場は再び活性化した。
今度こそ、というメーカーの並々ならぬ意欲は、複雑な仕組みによく表れている。 Sは2000年夏に、従来よりも膜が唇になじみやすい高分子樹脂を使用し、塗った後に揮発する油分とは別にシーピングオイルを取り入れた口紅を発売した。
樹脂膜の間からこのシーピングオイルがしみ出して、唇に艶と潤いを与えるわけだ。 落ちない口紅のパイオニア、Mも負けてはいない。

8年もの開発期間を経て、同じ年の秋に、唇に色をつけるベースと潤いを与えるコートの2本をワンセットにした商品で市場に挑んだ。 もう少し詳しく説明すると、揮発性の油と高分子樹脂を配合したベースの口紅でまず唇に色をつけて、その後、特殊なワックスを使ったものを塗るという手順である。
これならば色は落ちず、艶も潤いも保たれる。 Sは2つの異なる油分を1本に配合し、Mは別々の機能の2本立てとした。
SとMの一騎打ち。 勝利の女神がほほえんだのはMだ。

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